2007年1月30日

他政令指定都市とのバランスシートにおける各種計数比較(普通会計ベース)

Filed under: 岡田登史彦の政策提言の背景・考え — admin @ 1:53 AM

 各政令指定都市が発表している各種の報告の中には、各都市の財政状況を比較するのに有効な情報が沢山あります。とりわけ行政の成績の良いと思われる都市の情報には、見るべきものがあり、情報公開が、その都市の行政成績をよくしているのではないかとすら感じさせてくれます。各市が、自らの行政サービス向上のために、他の都市との比較報告する情報は、情報そのものが公正な情報であることから、京都市がおかれている財政的立場を分析するには大変有効であると思います。

 今回の情報は、平成19年3月に札幌市が発表した「バランスシートと行政コスト計算書(平成17 年度決算版)」の中より他都市比較したP8~9より引用したもので、一部わたしが加工して報告するものです。なお、札幌市の報告では係数の数値の大きい方から順位をつけていましたが、わたしは評価結果が判りやすいように評価の高い方から順位をつけました。

 ―― 1 資産・負債・正味資産の一人あたり金額について ――

 表1は、資産・負債・正味資産についての一人当たりの金額の比較表です。表2は各市の正味資産構成比率(=一般企業の財務分析における自己資本比率と同じ)の比較表です。

1評価における判断基準
(1)資産項目(普通会計)
 はじめに「資産」の一人当たり金額についてでありますが、これはこの金額の大小を単純に比較して評価してもあまり意味がありません。自主的な財源を投入して資産が投資されているのであれば、評価できますが、他からの借入金や市債の発行で取得されたものであれば、負債が増えていることでもあり評価されるものではありません。あくまでも負債との兼ね合いで評価されるべきものです。

(2)負債項目(普通会計)
 「負債」の一人当たり金額については、外部からの負債額を表していますので、少なければ少ない方が良いと判断されます。もっとも借入金や市債の発行の増大を危惧するあまり、具体的な政策を実施しないで、負債金額だけが小額であるのならあまり褒められたものではありません。あくまでも資産も負債も通常の活動が行われていることが前提としてその金額の大小が判断の対象となるものです。

(3)正味資産項目(普通会計)
 「正味資産」の一人当たり金額は、大きい方が評価は高くなります。しかし、多少留意する点があるとすれば、資産・負債ともに両建てで大きく積み上がっている場合の正味資産一人当たり金額の判断です。両建てとなった資産・負債をともに圧縮してゆこうとする際、売却損失等の損失が発生する恐れがあります。これは一人当たりの金額の減少を招く原因ともなりますので、この点が留意されるべきと思われます。
 しかし、資産・負債・正味資産の3つの項目の中では正味資産額が行政の長年の結果の集積としてバランスシートに現れてきますので、最も重要な評価項目とみなしても良いと思われます。

(4)正味資産構成比率項目(=正味資産/資産)
 この比率は企業会計における自己資本比率とほぼ同じで、数値の大きい方が評価は高くなります。企業では業種によりこの数値の評価の基準が異なりますが、都市経営においても、政令指定都市の中でも人口規模や政令指定時期の差異といったものを考慮する必要があるかもしれません。これから行政評価の際にバランスシートよる分析がより一層導入されてくると考えられますので、これからより正しい判断基準ができてくるものと思われます。

 以上のような判断基準をベースにして、以下の表1と表2から京都市のおかれている状況を分析してみたいと思います。

表1:資産・負債・正味資産の一人当たり金額の比較表

平成17年度一人当たりの各都市の数値。(単位:千円)
順位 資産(A) 負債(B) 正味資産(C=A-B)
  都市名 金額 都市名 金額 都市名 金額
1 大阪市 3,113 さいたま市 361 大阪市 1,862
2 神戸市 2,884 静岡市 527 神戸市 1,861
3 北九州市 2,554 札幌市 619 北九州市 1,625
4 福岡市 2,401 横浜市 737 福岡市 1,356
5 名古屋市 1,881 川崎市 743 札幌市 1,088
6 広島市 1,875 仙台市 779 横浜市 1,080
7 横浜市 1,817 千葉市 824 広島市 1,037
8 仙台市 1,809 京都市 826 仙台市 1,031
9 札幌市 1,707 広島市 837 名古屋市 1,019
10 京都市 1,699 名古屋市 862 川崎市 927
11 川崎市 1,669 北九州市 929 静岡市 921
12 千葉市 1,523 神戸市 1,024 京都市 873
13 静岡市 1,448 福岡市 1,046 さいたま市 856
14 さいたま市 1,217 大阪市 1,251 千葉市 699
平均 1,971 平均 812 平均 1,160

(注)各数値は、各市が発行するバランスシートおよび平成18年3月31日現在の住民基本台帳人口を用いて算出しています。

表2:各都市の正味資産構成比率(=自己資本比率)比較表

比率順位 正味資産構成比率
(=自己資本比率)
(C/A)
人口順位
都市名 比率
1 さいたま市 70.3 10
2 神戸市 64.5 5
3 札幌市 63.7 4
4 北九州市 63.6 13
5 静岡市 63.6 14
6 大阪市 59.8 2
7 横浜市 59.5 1
8 仙台市 57.0 11
9 福岡市 56.5 7
10 川崎市 55.5 8
11 広島市 55.3 9
12 名古屋市 54.2 3
13 京都市 51.4 6
14 千葉市 45.9 12
  平均 58.6  

2資産・負債・正味資産の一人当たり金額ならびに正味資産構成比率に対する財務分析結果
(1)資産項目分析結果
 まず資産面では、14市中10位と平均より低く、都市格の高さの割には、他の都市と比べて社会資本の金額は見劣りがします。これは積極的な投資的支出が少なく、人件費や物件費といった義務的経費の支出に重点が置かれていた結果かもしれません。

(2)負債項目分析結果
 負債面では、14市中8位と中位にいます。中位ということで問題がないように見受けられますが、資産面での金額が低く本来積極的な投資を避けていたのであればもっと上位に位置づけされても良いと思われます。結果として中位ということではありますが、もう少し低い評価となるのでないでしょうか。

(3)正味資産項目分析結果
 正味資産金額が14市中12位と非常に低い地位に甘んじています。歴的都市としての存在に頼り過ぎて現在的な行動ができていない結果として正味資産の積み上げが進まなかったのでしょうか。将来に何かを残すといった投資的支出を避け、その場限りの経費の流出を重ねた結果としての内部留保が十分でない状況を表しています。
大阪市、神戸市の金額が1860千円台に対して京都市がほぼ1000千円低い873千円にとどまっています、これは、実際の数値としては、京都市の人口147万人前後とすると1兆5000億円程度の正味資産の金額格差として表れていることを示しています。

(4)正味資産構成比率(=自己資本比率)項目分析結果
 その悪い状況をもっとも正確に表しているのが表2の正味資産構成比率です。これは企業の財務分析における自己資本比率と同じで、数値が高い方が評価は高くなりますが、京都市は14市中13位。都市人口規模で6位、歴史の古い都市格の高い街であるため、十分の内部留保があると考えられていたのですが、逆に最悪のレベルにいます。
 これは、従来から如何にすれば都市や市民がよくなるかといった視点から都市が経営されていなかった表れではないかと思います。
ただし、この報告は普通会計のみの分析結果であります。特別会計を加味した連結レベルでの数値で評価するともっと正しい本当の姿が見えてくると思います。これについては別途研究して後日報告したいと思います。

―― 2 歳入額対比資産比率ならびに社会資本後世代負担比率について ――

 各政令指定都市の歳入額対比資産比率ならびに社会資本後世代負担比率について表3より見てみたいと思います。

1評価における判断基準
(1) 歳入額対比資産比率項目(=資産/歳入総額)
 はじめに、歳入額対比資産比率とは資産形成に何年分の歳入を充ててきたかを示すもので、社会資本整備の充実度を示すものです。この数値が大きいほど評価は高くなります。しかし、一方では社会資本が整備されると、これに付随した維持管理費が後年度に発生する可能性があり、この点も留意されねばなりません。

(2)社会資本後世代負担比率項目(=市債残高/有形固定資産)
 社会資本後世代負担比率とは、有形固定資産のうち、市債を発行して整備した割合をみることにより、将来世代が負担しなければならない割合を明らかにしようというものです。この比率が高いほど将来の世代の負担割合が大きくなります。しかし、低すぎることも世代間の公平の点から問題となります。

 以上のような判断基準をベースにして、以下の表3から京都市のおかれている状況を分析してみたいと思います。

表3:歳入額対比資産比率ならびに社会資本後世代負担比率の比較表

順位 歳入額対比資産比率 社会資本後世代負担比率
都市名 都市名
1 北九州市 4.81 さいたま市 26.3
2 横浜市 4.72 静岡市 34.0
3 大阪市 4.68 札幌市 36.5
4 福岡市 4.55 神戸市 37.1
5 仙台市 4.48 北九州市 37.9
6 川崎市 4.21 横浜市 41.8
7 名古屋市 4.18 大阪市 42.7
8 広島市 4.17 川崎市 45.8
9 静岡市 4.14 仙台市 45.8
10 札幌市 3.95 広島市 47.0
11 神戸市 3.83 福岡市 48.6
12 千葉市 3.82 名古屋市 51.3
13 さいたま市 3.76 千葉市 52.1
14 京都市 3.48 京都市 54.9
平均 4.20 平均 43.0

2歳入額対比資産比率ならびに社会資本後世代負担比率に対する財務分析結果
 表3によれば、歳入額対比資産比率ならびに社会資本後世代負担比率の京都市の比率は、ともに14都市中14位と最下位にいます。

(1)歳入額対比資産比率項目分析結果
 京都市は14都市中14位と最下位で、歳入3.5年分に相当する金額の資産を持っていることを表しています。第1位の北九州市は4.8年分の資産を保有しており、京都市との差は1.3年分となっています。この1.3年分の資産があれば、どれほど市民生活が充実することでしょうか。都市経営の巧拙がこれほどにも差が出るということは、市民としてはもっと都市経営の重要性を考えるべきではないでしょうか。

(2)社会資本後世代負担比率項目分析結果
 京都市の数値は54.9年分で、14都市中14位と有形固定資産のうち後世代が負担する割合は最下位です。もともと有形固定資産の保有額が少なくそれに比して、方程式の分子にある市債残高が多いことを意味しています。積極的な市債の償還を実施する以外にこの数値は低くなりません。不要不急の資産の売却による市債残高の圧縮が必要でしょう。

―― 3 負債対標準財政規模ならびに市債償還所要年数について ――

1評価における判断基準
(1)負債対標準財政規模項目(=負債/標準財政規模)
 財政規模に応じた負債管理を行っているかどうかをあらわす指標で、財政の健全性を示します。

(2)市債償還所要年数項目{=(市債残高―現金・預金)/償還充当可能一般財源}
 毎年度市債の償還に充てることが可能な全ての一般財源を使って償還した場合に全額償還までに何年必要かを示すものです。期間が短い方が評価は高くなります。

 以上のような判断基準をベースにして、以下の表4から京都市のおかれている状況を分析してみたいと思います。

表4:負債対標準財政規模ならびに市債償還所要年数の比較表

順位 負債対標準財政規模 市債償還所要年数
  都市名 都市名 年数
1 さいたま市 198 さいたま市 5.8
2 静岡市 248 静岡市 5.8
3 札幌市 286 神戸市 9.5
4 京都市 332 川崎市 9.7
5 川崎市 347 仙台市 10.5
6 横浜市 350 横浜市 10.6
7 名古屋市 356 札幌市 11.1
8 仙台市 358 福岡市 11.7
9 広島市 367 北九州市 12.2
10 北九州市 380 京都市 13.6
11 神戸市 389 名古屋市 14.3
12 千葉市 412 広島市 14.6
13 福岡市 434 千葉市 15.1
14 大阪市 438 大阪市 24.5
  平均 350 平均 12.1

2負債対標準財政規模ならびに市債償還所要年数に対する財務分析結果

(1)負債対標準財政規模項目分析結果
 京都市は332と負債総額は標準財政規模の3.32年を表しています。これは14都市中4位と他の比率対比上位に位置しています。この数値は財政の健全性を示すものですが、他の指標と合わせて分析するとき、この数値が示す通り財政が健全というより、十分な都市経営を行わなかった結果として負債額が少なくこの結果となったのではないかと思われます。

(2)市債償還所要年数項目分析結果
京都市の市債償還所要年数は13.6年と平均の12.1年より1.5年長く、14都市中10位と中位グループの下に属している。

[参考]
表5;14政令指定都市内における各係数の順位一覧

    14政令指定都市内における各係数順位
14政令指定都市内における各係数順位 一人当たり資産金額 一人当たり正味資産金額 自己資本比率 社会資本後世代負担比率 市債償還所要年数 一人当たり負債金額 負債対標準財政規模
* 京都市 14 10 12 13 14 10 8 4
* 札幌市 10 9 5 3 3 7 3 3
  仙台市 5 8 8 8 9 5 6 8
  さいたま市 13 14 13 1 1 1 1 1
  千葉市 12 12 14 14 13 13 7 12
* 川崎市 6 11 10 10 8 4 5 5
  横浜市 2 7 6 7 6 6 4 6
  静岡市 9 13 11 5 2 2 2 2
  名古屋市 7 5 9 12 12 11 10 7
* 大阪市 3 1 1 6 7 14 14 14
* 神戸市 11 2 2 2 4 3 12 11
  広島市 8 6 7 11 10 12 9 9
  北九州市 1 3 3 4 5 9 11 10
* 福岡市 4 4 4 9 11 8 13 13

*は、図表に取り出した都市

図1:京都市に規模が近い札幌市、川崎市、神戸市、福岡市と大阪市の順位推移の図表


「出典」平成19年3月発表の札幌市「バランスシートと行政コスト計算書(平成17 年度決算版)」P8~9より、報告者が加工し引用。

http://www.city.sapporo.jp/zaisei/kohyo/zaimu/bs/bs17.pdf

以上


コメントはまだありません »

コメントはまだありません。

この投稿へのコメントの RSS フィード TrackBack URI

コメントをどうぞ